著者インタビュー「本当は、避難しなくてよい家が一番」小峰 昇さん(住まいの文化研究家)

2020.10.08インタビュー

小峰 昇さん(住まいの文化研究家)

9月に『家で災害に耐える~家にいて守ろう~』が弊社より刊行されました。災害時、差し迫った危険がなければ、避難所でなく住み慣れた家で過ごしたい。そのためには、どのような視点から「わが家」を見直せばいいのか。また、災害への備えとして、いま何ができるのか。――このようなコンセプトのもと、必要な知識をコンパクトにまとめたのが本書です。

著者の小峰昇さんは、「災害があっても、可能な限り住み慣れた環境で暮らし続けたいという方は少なくない。そこで大切なのは、何かに頼り切りにならず、自分で判断するという姿勢です。この本は、自分で考えるためのヒントに過ぎません」と語ります。本書に込めた思いをうかがいます。

自分の身は自分で守るという思想

――本書の特徴は、住み慣れた「わが家」を拠点に、災害への備えを解説している点です。「家で耐える」をテーマにした理由は?

テーマは「家で耐える」ですが、ただし、災害時、危険が身に迫っているときは、避難勧告に従い、避難所に逃げるべきです。いくら建物が頑丈であっても、住まいが建っている地形や地盤自体に危険がある場合は避けようがありません。

でも、災害によっては、備えがあれば避難所に行かずに自宅で耐えることができる。できる限り住み慣れた環境で暮らし続けたいという方は、決して少なくありません。安全の確保のために必要な場所ですが、近年、避難所の問題を耳にすることが多くなっているのも事実です。生活環境の質が低下し、からだの弱った方には健康問題が生じる。四六時中、他人と一緒にいなければならないので、プライバシーも保てない。また残念なことに、深刻なセクハラの被害が報告されています。

もちろん、自分らしい暮らしを続けるにためは、それ相応の備えが必要になる。つまり、自分の身は自分で守るという思想です。そこで大切なのは、何かに頼り切りにならず、自分で判断するという姿勢です。この本も、答えではなく、住まい方について自分で考えるためのヒントに過ぎません。

――本書からは、「住まい」を暮らしの基本として考える姿勢が感じられます。 

私は、大学卒業後に住宅メーカーに入社して以来、職場は変わっても、何らかの形で住宅に関係する仕事をしてきました。この間、高度成長期の住宅難の時代から、人口減少による家余りの現在まで、およそ半世紀にわたって間近で日本人と住宅の関わりの変遷を見てきたわけです。

日本だけでなく世界の家を見て回り、家とその風土とは切り離せない関係にあるということがわかりました。日本の夏は高温多湿であるため、これまで、風通しのよい、木の柱と障子から成る家が求められた。一方、冬は寒く乾燥するため、同じ家で襖を閉て、炬燵などの局所暖房を使う。このように、日本人は独自の住まいの文化を創ってきました。

また、日本は災害が多く、風水害や地震、火災などのたびに家が壊れる。そこから、家は壊れても建て直せばいい、耐用年数は短くてもいいんだという考え方が生まれているようにも思えます。

しかし、この考え方も変わってきました。温暖化で厳しくなった気候に対し、住宅は、縁側のある開放的なものから、密閉してエアコンを利用するものに変化した。また、何度も災害に遭いながら、材質・構造の面で少しずつ耐震・耐火性能を上げてきた。今では、家がすぐに壊れるものだと思っている人は少ないでしょう。災害発生時の住まいの役割についても、考え方を改める時期が来ているのではないかと思います。

前書きにも書いたことですが、本当は、避難しなくてよい家が一番。単に頑丈な家というだけでなく、災害が起こることを前提に住まいを考え、災害が起こっても「避難しなくてよい家」が求められる時代になっています。