「年金相談の現場で頼りになるツールに」著者インタビュー 長沼明さん

2019.09.02インタビュー

長沼 明 さん

市長や議員のキャリアが共済年金への関心に

――本書にはこれまでのキャリアが生かされているように思われます。

もともと私は学生時代、新聞記者を志望していました。世の中にあまり知られていない事実を発掘して社会の多くの人々に訴えかけ、世の中を少しでもよくしていきたいと思っていました。

当時は、既卒ではマスコミを受験することができなくて、大学に残って、就職試験にチャレンジしていたのですが、なかなか難しく、そんなとき、ちょうど、埼玉大学の学生のとき、志木市(埼玉県)で市議会議員選挙があり、直接政治に関わることは好きではなかったのですが、思うところがあり立候補し、当選しました。その後、埼玉県議会議員と志木市長を経験し、通算すると、市議を6期、県議を3期、市長を2期、務めました。

議員時代は議会の中で何が起こっているのかを市民のみなさんに伝えるため、市議会報告や県議会報告などを発行していました。議会報告を発行するというのは、私の選挙公約のひとつです。

――共済組合の年金に関心を持ったのは?

市議会議員のときに、市民からの年金相談や、パートタイマーの労働相談にきちんと対応したいと思って、社会保険労務士の資格を取りました。

その後、県議会議員のときには、地方職員共済組合、公立学校共済組合、警察共済組合に従事する職員と接する機会もあり、職員から直接レクチャーを受けることが多々ありました。そして、市長のときは私自身、市町村職員共済組合の組合員でした。つまり、5つの主要な地方公務員共済組合のうち、4つの地方公務員共済組合に接触する立場にいたというわけです。厚生年金と比べると、共済組合の年金情報というのは、あまり外に流れていないので、そういう意味では、私にとって、社会に伝えたい情報であったように思います。また、他の人よりは、より多くの情報に接することのできるポジションにあったといえます。当時、共済組合同士は、横の連携が薄いという印象でした。

さらに、「被用者年金一元化法」が成立したときには(2012年)、まさしく現職の市長でしたから、多くの情報が自然と入ってきました。当時、年金は政治問題になっていましたから、一元化で共済組合はなくなってしまうのではないか、と本気で心配している人もいました。職員たちも、自分たちの年金がどうなるのかたいへん心配だったと思います。そういう状況の中で、私が日本年金機構設立委員会委員をしていたということもあり、担当者が的確な情報を収集・報告してくれていたように記憶しています。 

――本書の読者にメッセージを。

こうして1冊の本が出版されると、共済組合の年金とは「そういうことだったのか」ということで、制度への理解が深まると同時に、「それなら、こういう場合はどうなるの?」という別次元の疑問も生まれてくると思います。そのような新たな疑問を踏まえつつ、共済組合の年金と厚生年金(1号厚年)の絡む、さらに複雑な事例にも対応できるように、みんなが尽力していく必要があると思っています。今後、第2弾、第3弾の本が出版され、共済組合の年金への理解がさらに深まっていくことを期待しています。

 

(プロフィール)

長沼 明(ながぬま あきら)さん/浦和大学総合福祉学部客員教授(「公的扶助論」「福祉行財政と福祉計画」担当)。2014年4月より、現職。日本年金学会・日本自治学会会員。埼玉大学の学生のとき、志木市議会議員となり、学生市議として話題になる。通算で、志木市議6期・埼玉県議3期を務めたのち、2005年から2期8年間志木市長を務める。市長在任中、日本年金機構設立委員会委員、社会保障審議会日本年金機構評価部会委員を歴任。社会保険労務士の資格も有する。主な論文等に『被用者年金制度一元化の概要と制度的差異の解消について』(2015年2月)、『地方公務員の再任用制度と年金』(2014年2月)などがある。年金分野以外でも、『ノンリケット』で朝日ジャーナルノンフィクション大賞・テーマ賞を受賞(1992年、朝日新聞社)、『分権時代の自治体議会』(月刊誌「地方財務」で1996年1月号まで連載、ぎょうせい)など幅広く執筆。